赤いスイートピー
「佐山とチエミがすごくいい感じだって、美術部の子達がいってたよ」

柏田の部屋で、ビデオ映画のエンディングテーマが流れ始めるのと同時に柏田が言った。

外はせっかくの冬晴れだけれど、チエミと柏田は家で寛いでいた。


「チエミも佐山のこと、まんざらでもないんじゃない?」

チエミを見る柏田の瞳が優しい恋人のそれではないことに気づき、チエミは怯えた。

「…どうしてそんなこと聞くの?」

さっきまで、二人で寄り添ってビデオを観ていたのに、今は確かに距離が出来ている。


柏田がチエミに向き直り、言った。


「昨日の放課後、佐山が美術部に来たんだよ。」

「佐山くん何しにきたの?」

「チエミとまだ付き合ってるのかって聞かれたよ。付き合ってるっていったら、早く別れてくれっていわれたよ。」

昨日卓弥は放課後用があると言ってたから、一人でさっさと帰ったのかとチエミは思っていた。

「チエミのこと、すごく心配してたよ。俺との関係が皆に知られたら、チエミが学校に居られなくなるって。ふしだらな女だと思われて、チエミがめちゃくちゃになるって。」

柏田は俯いて言った。

「佐山のいうことはもっともだよな。俺はどうなってもいい…元々学校の先生、長くやる気はないし。」


チエミはただ呆然と柏田の言葉を聞いていた。

「お願いだから、チエミを本当に愛してるなら別れて欲しいって。大変なことが起こる前に。俺の方が幸せに出来るからって頭下げられたよ…そうかもしれない。」


(…待って…)

チエミの目の前で、何かが何処かへどんどん流されていく。

チエミはそれをただ見ているだけで、どうすることも出来ない。


「佐山くん、さすが若いな…」

柏田が少し微笑みながら言ったのは、泣き出したチエミを慰めたかったからだ。

チエミに喜びを与えてくれた左手の薬指の指輪は、今は涙に濡れ、無機質に光る。


柏田は泣き止まないチエミを抱きしめた。


「もうここには来ないほうがいい。」


柏田の言葉に、チエミは声をあげて泣き始めた。

「こうなったのは、全部大人の俺の責任だ…チエミを傷つけたくないんだ。許してくれよ…」

柏田の声は震えていた。

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