猫と宝石トリロジー①サファイアの真実


妹は何故こんなに頑固者になってしまったのだろう。

まさか生涯独りを通そうと決めているのか?

伯母の所にいる間に色々あったのはわかっている。
自分が未熟だったばかりに、あそこに陽人と美桜をあずけたのがいけなかった。

お陰で陽人は変わり者、
美桜は頑固者になってしまった。

それでも俺には二人を幸せにする責任があるんだ。

「ならば、東堂のおじ様とするわ」

「馬鹿は休み休み言え」

「本気よ、離婚されて随分たつし……」

「いい加減にするんだ」

「あら、東堂コーポレーションの社長さんならば釣り合いも取れるじゃない?」

「美桜」

普段は魅力的なバリトンが、不穏な怒りを滲ませている。

「俺だってこんなことを急かしたくはないんだ!
だがこのままでは、意にそぐわない相手を押し付けられて断れなくなるぞ」

「どうしてオババは放っておいてくれないの?」

「オババの考えなんかわかるもんか!」

売り言葉に買い言葉で、ついカッと答えた蓮が苦笑いした。
大嫌いな伯母が、今年に入ってから躍起になって自分の知り合いの男を美桜の結婚相手に押し付けてくるようになった。

初めは軽く交わしてしたが、拉致が空かないとわかると、他の親戚たちを巻き込み勝手に推し進めようとし始めた。

「別に家柄とか気にしなくていいんだぞ?」

「わかってる」

「おまえが自分で見つけてきたのなら、頭ごなしに反対はしない。釣り合いとかそんなのは問題ではない。おまえの幸せが大事なんだから」

兄の言いたいことは痛いほどわかるから、
美桜の心が余計に苦しくなった。

私達兄弟と本気で恋愛しようとする人なんて
この世に本当にいるのかしら?

【株式会社 ASO】を知らない人はおそらく少ない。

小さな町工場から始まった機械メーカーのA S Oは今や車好きなら誰もが憧れるレーシングチームを所有する会社。

戦後すぐに曾祖父が立ち上げ、お祖父様が更に広げた事業で成功を修めた。
そして車好きだったお父様が新しい夢を注いだ会社。

私と結婚すると言うことは、長者番付に載る麻生との繋がりを持ち、尚且つその財産の一部を手に出来るということ。

どんなお馬鹿さんだって、私に我慢すればいいだけで手に入るものの大きさを計算できる。

「しばらく放っておいて」

「俺が突っぱねていられるのも時間の問題だ。叔伯母さまはすでに式場まで押さえてるんだからな」

「なんですって?!」

「とりあえず、偽物でいい。相手の振りをしてくれる男などおまえならごまんといるだろ?」

「いたらとっくに頼んでるわよ!」

「美桜っ!」

「もう、うるさい!」

美桜は力任せに扉を閉め、無作法だとわかっていて、わざと大きな足音を立てながら廊下を歩いた。

あのオババの思うようになんて絶対なるもんですか!!

心に固い決意をして自室に戻った。



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