猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

かけ違えたボタン


日本に戻った美桜が最初に会わなければいけないのが、オババだった。

「すまない、どうしても会わせるべきだと詰め寄られて断る理由のネタ切れだった」

蓮をこれ以上煩わせる訳にはいかない。
美桜は渋々ながら伯母の要求をのむことにした。

「ううん、むしろこれで良かったのよ」

はっきり断るには好都合だ。

日本に戻った翌日、美桜は蓮と共にホテル ザ・トキオに来ている。

「取り合えず伯母様の顔をたてるだけだ」

「わかってる。ねえ?それよりもこれ馬鹿みたいじゃない?」

美桜は長い袖を持ち上げた。

今朝これ見よがしに和室に用意されていたこの着物は、いかにもって感じの可愛らしい桃色の振り袖。

無視しようとしたのに期待した瞳で待ち構えていたタキさんからは逃げられず、仕方なく着たものの……

「そんな事ないさ、よく似合ってる。美桜は普段だってもっと着飾ればいいのに堅物の司書のような格好ばかりだから」

「なんですって?」

親友には喪中の未亡人と言われ、実の兄は堅物の司書呼ばわりされるなんて。

「なんだよ?変な顔して笑ってないでほら、行くぞ!」

「あ、待って」

こんな馬鹿げた見合いはさっさと終わらせて、明日は絢士さんに全てを打ち明けるのよ!

私の明るい未来はすぐそこまで来ているの。

美桜の頭の中は楽しみでいっぱいだった。

まさかこの日、この場所が、運命の歯車を狂わすボタンの掛け違いになるとは思いもしないで……

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