猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

ドンドンと激しく扉を叩く音に、美桜は頭から布団をかぶった。

「お嬢様!いつまでそうなさっているおつもりですか!」

タキの怒鳴り込みも今日で五日目になる。
若様は放っておけと仰るがそうもいかない。

タキは盛大なため息をついて、隣の女性を見上げた。

「いいところに来てくださいました」

日向は肩をすくめた。

「お嬢様!!」

「いいから、ほっといてよ!」

「そういう訳には参りません!お仕事はどうされるのですか!」

「大河内の呪いのせいで動けないのよ!」

「は?何の冗談?」

呆れる日向にタキはまた大きくため息をつく。

「昨日は陽人坊っちゃまのせいで、蛙の呪いがかかってると仰せでした」

「陽人が何かしたの?」

「いいえ!陽人坊っちゃまはこのところ研究室に籠りきりで、こちらには殆どお帰りになりません」

『それもまた問題ですが…』と、タキは頭を抱える。

「まったく、仕方ないわね」

日向は眉間に皺を寄せて扉を叩く。

「ちょっと、みお!何やってんのよ!開けなさいよ!!」

「ひな?」

美桜は布団から頭を出した。

「そうよ、あたし」

「パリのファッションウィークは?」

「昨日終わって、今朝戻ってきたの」

「そう。おかえり」

「ただいま。ねえ、いったいどうしたのよ?さっき店に寄ったら、パパが店番してるから驚いて腰が抜けそうになったわよ!」

「嘘っ?!おじさまが?」

「そうよ。いいから、開けてよ」

「いやっ!」

「彼と何かあったの?」

美桜はまた布団に潜り込む。

「そうなのね?みお!!」

「……まだ頭の中がぐちゃぐちゃなの」

「そう、いいわ。みおが話したくないなら、榊さんの所に行って聞いてくるから」

「ダメよっ!!」

部屋の中を慌ててかけてくる足音がして、扉が開いた。
美桜の姿を見た途端、日向は彼女を抱きしめた。

「馬鹿ね、どうして私を呼ばなかったのよ」

「…ふぇっ……だって……」

「いいわよ、泣きなさい」

「ひなぁ……」

まるで子供のように咽び泣く美桜に、日向の胸も張り裂けそうになる。

まさか榊 絢士が親友をこんな風に泣かせるなんて思ってもみなかった。

彼は美桜を笑わせ、本来の頑固だけど明るくて行動力のある子に戻してくれた、優しくて素敵な人だと思っていたのに。

日向は美桜の頭越しにタキさんに頷いた。

タキは黙ってお辞儀をしてその場から立ち去った。

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