猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「さっきも言ったけど、絢士はいないよ」
「逢ってもいいんですか!」
東堂は期待いっぱいの顔でみゆきを見た。
「ダメなんて言ったら綾乃に叱られるよ」
「だけどあたしもひねくれ者だからさ、そう簡単に逢わせるのもシャクだって思っちゃうんだよね』
「どうすればいいんですか?」
「どうすれば、じゃないよ」
「えっ?」
「あの子は今、アイルランドへ行ってるよ。どこへ行けば逢えるかは、教えなくてもあんたならわかるだろ?」
「アイルランド……」
「おじさま?」
「わかるよ……ああ、わかるとも!」
「なら、そこへ行きな。今朝こっちをたったばかりだから、明日の朝にでも出ればまだ追い付くでしょ?」
「いえ、今から行きます!ロンドン行きの便がまだあるはずだ」
「おじさま!お仕事はどうされるの?!」
「そんなのかまってられるか!」
「あらら」
みゆきさんが呆れて瞳をぐるりと回した。
「美桜、急げ!」
「えっ?!私も行くんですか?!」
東堂は悲しそうに瞳を伏せた。
「私は彼の顔を知らないんだ」
「でも……」
それなら写真をと言っても首を振られて、戸惑う美桜の腕を引いてお店の外へ出すと、東堂は自分だけ中に戻った。
「榊さん」
「なによ?まだ何か聞きたいことでも?」
「あなたが綾乃と息子の側にいてくれて本当によかったです」
「ちょっと、やめてよ……」
「ありがとうございました」
深々と頭を下げた後に、東堂は彼特有の茶目っ気たっぷりの笑顔を見せて出て行った。
「何よ!絢士そっくりじゃない!!もう、綾乃ったら!あんた何て男を好きになったのよ!」
みゆきは涙を流しながらカウンターの中の写真の綾乃に笑いかけた。