猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「どうして綾乃を捨てたんだ?」
初めて聞く低い声に美桜はハッとした。
「誤解なんです!」
止める東堂を振り切り、美桜は全て事情を打ち明けた。
黙って最後まで聞いたみゆきは、手にしたおしぼりを東堂に投げつけた。
「あんた馬鹿だね」
「みゆきさんっ!」
「それでもって、綾乃はもっと馬鹿だよ」
そう言って自分は新しいおしぼりで目頭を拭った。
「あの子はね、絢士は椎茸が嫌いだよ、猫も犬も好きで小さい頃からいつも何かを飼ってた。アイスは抹茶が好きで……フック船長も好きだけど、あの子は冒険が好きなんだ、宝探しだって言ってはいつもあちこち出掛けてたよ」
東堂は何も言わずに投げつけられたおしぼりで顔を覆いながら、何度も何度もうなずいた。
「良いこと教えてあげるよ、綾乃が妊娠を知ったのは日本に戻ってからなんだ。知らずに飛行機に乗ったのもよくなかったし元々細くて体力のない子だったから安定期に入るまで入院してたんだってさ」
「……そうですか」
絞り出すような声で東堂は後悔でいっぱいの顔をあげた。
「八ヶ月が過ぎた頃に色々考えたら怖くなって、あんたに一度連絡しようとしたけど止めたって言ってたのは、恐らく結婚の話を知ったからだろうね」
バンッ!と強く叩きつけたテーブルの上で、東堂の拳が白くなるほど強く握られた。