猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
美桜と東堂が空港に着くと、蓮と東堂の秘書今泉がパスポートを持って待っていた。
飛行機が飛び立つまでの時間、二人にこれまでの経緯をかいつまんで話した。
美桜の彼だった男が、東堂と血の繋がった息子だったと告げた際は流石の蓮も驚いて言葉を失っていた。
優秀な秘書今泉は驚きからいち早く立ち直ると、頭をフル回転させてこれからの事を色々考えている様で、蓮と共に即座に空港を後にした。
飛行機に乗ると東堂は『無理を言ってすまないな』と謝ったきり、瞳を閉じて無言になった。
時差の関係から、絢士とは半日以上の差がある二人はロンドンに深夜に着くため、ASO が契約しておさえているホテルの部屋に一泊して翌朝アイルランドへ向かうことにする。
美桜は疲れた顔の東堂の顔を見た。
たった数時間のうちに、おじさまの人生は変転してしまった。
あの時こうしていれば……
そんな後悔は人生で山のようにあるけれど、
どうやってもやり直せない事ほど
強く残るのかも知れない……
運命の歯車が狂ってしまうのはなぜなの?
神様はどうしてそんな意地悪をするの?
でも、
おじさまが綾乃さんと結婚していたら、親友の日向はこの世にいないのだし、みゆきさんが人の親になることはなかったのかも知れない。
誰かしら何かを失っていたのだろうし、
今ある出会いが無かったことになるのなら、
それはやっぱり悲しい……
だからきっと、
後悔する事にだって何か意味があったんだと思いたい
いつか……
もしその意味に気づけなくても、お互い笑って話せる日が来たら、絢士さんを親友の兄として受け入れられるのだろうか……
そんな事を考えながら、
美桜はアイルランドへの長いフライトを過ごしていた。