猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
ドンドン!と木の扉を叩く音が響くと、中から大柄のがっしりとした老人が出てきた。
「すまんな、うちはもう宿は止めたんじゃ」
「何だって?おかしいな30年前は死ぬまで続けると言ってたはずだが?」
東堂が同じ訛りのある英語で質問すると、おやっ?と顔をあげた老人は、何かを探るように東堂の顔を見た。
「まさか!」
その瞳が徐々に見開かれ、大きな笑顔に変わった。
「ジュンヤおまえか!?」
「イアン、おひさしぶりです!」
「なんてこった!ディー!!ディリア!」
ガシッと東堂の肩を掴んでイアンは、二人を中へ招き入れた。
「はいはい、なんです?今日はまったく…」
ゆっくりとした足取りで奥から出てきた人は、東堂を見るなり腕を広げて抱きしめた。
「まったく……長生きするものですね」
「何言ってんだよ、まだ30年しか生きてないじゃないか?」
東堂の冗談にフフって笑ったディリアさんが、隠れるように後ろにいた美桜を見た。
「あら、そちらは?」
「美桜です。彼女は娘のようなものです」
「美桜、イアンとディリアだ」
東堂の答えに不満なのか、ディリアさんはじぃーっと美桜を見つめている。
「どこかで見た顔だわ、日本人の顔は覚えているの…」
「私はここへは初めてですが……」
日本語で呟くと、ディリアさんは手を叩いた。
「確か日本の花の名前よ……ツバキ!」
「母もここへ来たんですか?!あっ…」
『椿妃は私の母です』美桜は英語で言い直した。
「なんとまあ、今日はすごい日だ……」
イアンの呟きを聞いた東堂は確信し、美桜に向かってうなずくと、美桜もうなずき返した。