猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
親友の見解
美桜はぼんやりと壁にかかった絵を眺めていた。
絵は専門でないからこの絵について詳しい評価はできない。
でも好きか嫌いかで言えば、初めて見たときからこの絵が好きだった。
……その記憶はないのだけど。
この絵を初めて見たのは一歳だと聞いている。
母と東堂のお屋敷に遊びに行くと私はいつもこの絵を見ていたそうだ。
だから、おじさまはここをオープンした時にこの絵をお屋敷から持ってきてくれた。
【夏の魔法】
タイトルのないこの絵を美桜は勝手にそう呼んでいる。
この場所に立っている時の画家の瞳に映った夏の風景と思い描いた物語の中に自分がいるような感覚になる
素敵な絵だ。
そしてこの猫の瞳
鮮やかなブルーは謎めいていて何か別の真実をみせているような気がする。
「嫌だ!本当だったのね!」
突如、明るく弾んだ声が店頭から響いてきた。
「ひな?」
背が高くすらっとしたゴージャスな美人が、狭い店内をカツカツとヒールを鳴らしモデルウォークでこちらに向かってきた。
東堂日向(とうどうひなた)は幼なじみであり、姉妹のようでもある親友だ。
この一番の親友は中学二年生の時に若い子をターゲットにした新しい雑誌の創刊パーティに出席したのがきっかけで、モデル東堂ヒナタになった。
「ちょっと!隠し事はなしよ!」
「もう、来るそうそう何よ?ニューヨークはどうだった?」
アジアンビューティーという言葉がある。
元々は宣伝文句の造語だと思うが、日向はよくそう表現される。
黒い艶やかな髪に切れ長の瞳、そして白い肌はとてもきめ細かく染みひとつない。
彼女の働く世界では、同じ年齢のモデルはそろそろ何かしらのシフトチェンジを考えているのに、歳を重ねて耀く彼女の美しさは、まだまだ多くのデザイナーから愛されているようだ。
「別に、いつもと変わらずよ。それよりも!ねえ、何があったの?!」
「何ってなにが?」
「美桜!私の瞳は誤魔化せないわよ!パパですら気づいているのに」
「おじさまが何を言ったの?」
「ナンパにひっかかったようだって」
「はあ?」
「さあ、洗いざらいぶちまけて。どこの誰?どんな男?」
言いながら、日向は勝手に店内にあった売り物の椅子をひいて隣に腰をおろした。
「別に、その……」
美桜の様子に日向は内心驚いていた。
彼女が誰か、それも男のことを思ってこんな顔をするのは、いつぶりだろう?
「ふうん。私に隠したいほどいい男なんだ」
「ち、違うわよ、いい男だとは思うけど」
「この日本に私の知らない いい男がまだいたのね!」
「あーもう!ひなったら!」