猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

美桜は一度伸び上がって店内を見渡し、お客さまが誰もいないのを確認した。

「そうよ!あのね……」

美桜は先日の出来事までをディテールを省かず話して聞かせた。

彼がどんな声なのか、微笑まれるとどんな気持ちになるのか、その部分は特に正直に。

まさかと思うけど、誘われた場所がキッチンアカシアだったこと

そして……

「彼はそこにあった花束を全部買って私に差し出したの」

「ちょっと!!飲み物ないの!?」

日向は手で顔を扇いだ。

「それで?」

続けて、と顎を上げた。

「それで……その……」

「キスしたのね」

「ええ……」

自分からキスした事はあえて言わない。

「それから?」

「それからタクシーに押し込まれて帰されたわ」

「なんですって!?」

美桜がその時の状況を説明すると、日向はあっけにとられ、そのあと唸った。

聞く限り榊 絢士という男には好感がもてる
女を骨抜きにできる才能を持っているのに、信頼できそうだ。

「どう思う?」

「さっさと自分の気持ちに正直になる事ね」

「でも、彼はまだ私がASOの人間だって知らないのよ」

「それが?」

日向の中の燻っている火種に油が注がれた。
美しい眉がキッと険しくつり上がる。

美桜を傷つけたあの男の事は、この先も一生許すつもりはない!

「いい?!あの男にはきっと今に天罰が下るけれど、
一番の仕返しはみおが幸せな結婚をすることなのよ!」

「別に彼を引きずってるわけじゃ……」

「そうね」

日向は短い言葉に全ての気持ちを込めて『ふんっ』と鼻をならした。

これ以上、あの男を話題にするつもりはない
日向は話題を変える事にした。
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