猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

遊ばれてる?!



「みーおーなんで電話に出ないんだよ?」

彼女を馴れ馴れしく呼ぶ声に、絢士はハッと振り返った。

「あっ」

入ってきた男と瞳が合ったと思ったら、次の瞬間、絢士は胸ぐらを掴まれていた。

「やめて、陽人!」

彼女が男の名を親しげに呼ぶのを聞いて、二重のショックでやり返す気力が奪われた

「これは全部、私が一人でやったの」

男がゆっくりと首を回して彼女を見る。

「その人は止めようとしてただけ」

必死な彼女を見た男は悪態をついて俺を離した。

「すまない」

男の纏っていた恐ろしげな空気が、嘘のように穏やかなものになった。

絢士は敗北を感じながら、男を見た。

長身でよく見れば整った顔立ちをしているのに、何故か服はよれよれのチェックのシャツと履き古したデニムで、無造作な髪型も見方によってはボサボサと言えなくもない。

その髭はワイルド系なのか、無精髭か?

こういうやつに母性本能を擽られるんだろうな。

付き合っている男はいないと言っていたが、俺のように彼女を想う男がいないとは言っていなかった。

そんなこと、言うわけないか
じゃあ、あのキスは何だったんだよ?!

「癇癪を起こしてこんなことをするなんて、三つの子供と一緒じゃないか」

口調は呆れているのに、心配そうに彼女の頭を撫でる手には深い愛情が感じられた。

「だって……」

甘えるような彼女の口調に、居たたまれなくなって絢士は口を開いた。

「俺は帰るよ」

「待って!」

美桜の慌てようと、明らかに気落ちしている男を見て、陽人は悪い顔で笑った。

「迷惑をかけて悪かったね」

陽人が美桜の肩をグッと抱き寄せて、愛しげに頭に顎を乗せた。

「ちょっと!陽人!」

「いいえ、俺は何も……」

「こいつは見かけと違って怒ると気性が荒くてね」

「陽人、それ以上言ったら本気で怒るわよ」

「ほら、怖いでしょう?」

「そうですかね……」

はははっと無駄に乾いた笑いが絢士の口からこぼれた。

うぜーよ!俺の前でいちゃつくな!

絢士は気力を振り絞って苛立ちを押さえ、回れ右で入り口へ向かった。

「陽兄さん、いい加減にして!」

絢士の足がピタリと止まった。
< 33 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop