猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

振り返り、彼女の顔を見て二度瞬きをした。

「いま、お兄さん、て言った?」

「ええ」

彼女はため息混じりにうなずいた。

「ちぇーつまんないのーおー」

陽人はふて腐れたように頬を膨らますと、近くの椅子を引き背もたれを前にして座った。

「もしかして俺をからかってました?」

「うん!」

絢士は思い切り脱力した。

うん!て、おいっ!!ふざけんなよ、
その笑顔はなんだ!本当なら俺が座り込みたい気分だ。

「ごめんなさい!!」

絢士が自分から自己紹介すると、謝る彼女から正式に紹介されたその人は彼女の二番目のお兄さんの、あそうはると 28歳!?

何だよ、ひとつ年下じゃないか!
確かにちゃんと見れば、口元とか全体の雰囲気が彼女と似てる。

そう言えば彼女が言ってたな、
一人は過保護で、あと一人は何だっけ?

そうだ、気難しい!

こいつが気難しい方か?!
これは気難しいとかじゃないぞ!

てことは、
過保護っていうのも違うんじゃないだろうか?

とは言え、武道の有段者なのは間違いない。

やっぱりジムに通おうか。

「美桜、絢士おもしろいな、気に入ったよ」

「は?」

いきなり呼び捨て?
彼女にも呼ばれてないのに?

しかも俺の年齢きいてもタメ口かよ。
兄だからって、微妙に上から目線じゃんか!

「ちょっと、やめて」

「分かりやすいって言われるだろ?」

「誰が?」

まさか、俺が?

これでも俺は仕事ができてクールとか冷酷とか社内で言われてるんだ。

「ほらっ、な?」

見れば彼女も笑いを堪えている。

「嘘だ」

いったい俺はどうなってしまったんだ?
そんなに全部顔に出てるのか?
すっかり調子が狂ってる

「陽人、失礼よ……」

堪えきれず吹き出した彼女を見て、つい絢士も笑ってしまった。
ダメだ、彼女といると自然と寛いだ気分になってしまう

「何で兄貴を呼び捨てにしてるんだ?」

「本人たちの希望なのよ」

「はあ?」

「こいつに名前を呼ばせてると、面倒な事に巻き込まれなくて済むんだよ。色々とね」

「色々、ねえ……」

さっきの彼女と違って、兄貴たちは誤解を訂正しない訳か。
なんて兄貴たちだよ……

「さて、そろそろ我々はこの惨事の訳を聞かせてもらう頃だよな?」

陽人は立ち上がって、絢士と肩を組んだ。
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