RUBY EYE
狂気を孕む

紅玉館―――。

椿は自分の手を見つめ、悲しく目を伏せた。


どうして傍にいなかったのか。

どうしてもっと早く、気づいてあげれなかったのか。


光彦の死体を前に気を失った月野の顔が、今でも鮮明に思い出せる。


「・・・・・・」

「水をもらえるか?」


声がして、椿は顔を上げる。

黒いスーツの秦が、上着を脱いで立っていた。


「えぇ・・・・・・」


椿はグラスを用意し、冷たい水を注ぐ。


「お嬢さんは?」

「十夜が傍にいるわ」

「そうか・・・・・・」


紅玉館を包む空気は重い。

椿がグラスを置くと、秦は苦笑してグラスを手に取る。


「心配か?」

「当たり前だわ。目の前で、人が死んだのよ」


浦部の時とは違いすぎる。

光彦は、月野の手で心臓を貫かせた。

そこに月野の意思は無かったが、感触も匂いも、すぐ傍にある。


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