RUBY EYE
一度逃げているし、またここで逃げたりしたら、失礼では済まない話だ。
月野は迷いながら、掴まれた手首を見つめる。
「今は誰もいないから、気にしなくていいよ。先生には、僕から話しておくから」
「でも・・・・・・」
そもそも、具合悪くは―――いや、悪寒を感じたし、もしかしたら自分でも気づかない内に風邪を引いたのでは?
冷静さを保ち続ける頭の中で、グルグルと考えが駆け巡る。
「さぁ、音無さん―――」
「手を離せ」
月野を引っ張る浦部の手を、不意に現れた手が容姿なく引きはがす。
「綾織くん・・・・・・」
視界に映った十夜の目は、敵意を剥き出しにしたように、鋭かった。
その視線は、浦部へと注がれている。
「綾織くんか。誤解しないでくれ。僕は、保健医として彼女の体を心配してるんだ」
ニコッ、と浦部が月野に笑いかける。