エレーナ再びそれぞれの想い
マリアンヌは心の中でそう叫んでいた。
そして、たかが15~16歳の少年(既に幽霊)相手に、後退りしている自分に気づいた。
「死にかけている人の寿命を下手に延ばせば、人間界の歴史を変えてしまうことだってありうる。だから禁止にされている。
こんな事をここで言ったら怒られるかもしれませんが、天上界にあんな規則があるのは、それなりの理由があるんだと思います」
突然思いがけぬを言い出したシュウに、エレーナ達は何を言い出すのかと大慌て。
これじゃ、むしろ、マリアンヌの気持ち逆撫でするだけだ。
「そんな事を言いにわざわざ来たの?」
「僕と同じクラスに柚原なつみさんっていう人がいます。
なつみさんは学校の登山遠足の時に、崖から転落しかけたんです。
その時、僕が幽霊で、飛んで行けたから、間一髪で助けられたんです」
「でも、あの人はご主人様の事を散々……」
プリシラがそう言いかけると、
「それはもういいんです。過去の事は言わないでください。
今は、あの人ともうまくやっています」
シュウは、プリシラを口止めした。
「僕も、自分が死んだ時は悔しかったです。
でも、あれから僕は、自分なりに天上界の規則について考えてみたんです。
考えようによっては、なつみさんは、僕が死んで幽霊だったから助かった、とも言えるんです。
僕が死ぬことによって、なつみさんが救われたのも人間の歴史の一部だとすると、それは変えてはなりません。
天上界の規則によって、新たに救われる命が出て来ることもあるんですよ。
僕、今ならあの規則がある訳、分かるような気がします」
マリアンヌは、訳が分からなくなった。
「わっ、分からない。
自分は死んだのに、他の人が救われて良かったとか、私には、貴方の気持ちが分からない。何が言いたいの!」
マリアンヌは、感情的になった。
「僕、貴方の気持ち良く分かるんです。
僕は幼少の頃、大地震による津波で親を失いました。
つい先日も大雨による土砂崩れで、今度は育ての親を失い、今も行方不明です。
大切な人を失った僕には、貴方のつらい気持ち、よく分かります。
そして、今度はエレーナさん達までも、僕は失おうとしています」
シュウはそう言うと、天上界の巨大樹の枝を取り出し、並べた。
「これは、まさか巨大樹の!」
マリアンヌは驚いた。
シュウはうなずいた。
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