エレーナ再びそれぞれの想い
なつみの育ての親は、音信不通の黒川は死んだと思い込んで、今までなつみにそう教えてきた。
「人の寿命をむやみに延ばす事は、社会に影響を与えるので天上界の規則で禁止されています」
シオミが初めて口を開いた。
「規則が何よ! それに、白川にも天使が付いていて、みんな揃って私の邪魔ばかりする。
天使のせいでなにもかもめちゃくちゃよ。私、天上界を絶対許さない」
なつみの激しい怒りは頂点を超えていた。
このままではらちがあかない、そう思ったシオミ。
「皆さん、これを御覧下さい」
そう言ってシオミが黒川の腕に触れた。
シオミの手は小さな光を発した。
やがて黒川の体の中から光の塊のような物が出てきた。
それは、映像を映し出した。
皆がシオミが発する天使の能力に驚いて注目する。
「これは、黒川さんの中にある昔の記憶です」 
病にふす黒川と、当時契約していた天使が何やら会話をしている。
「私はこれ以上生きていちゃいけないの?」
不安げに尋ねる黒川に対し、天使は、
「気持ちは分かりますが、人間の寿命をむやみに延ばすことは天上界から禁止されています」
「どうして? 天使はどんな願いでも叶えられるんでしょう?」
天上界の意外な規則に納得できない黒川。 
「それは、社会に影響を与えるからです。
将来の結婚相手や生まれてくる子供が変わったり、政治や経済に影響を与えることもあります」
黒川は、天使の言葉にひどく落胆した。
「分かったわ。私はどうしても生きられないのね。今までいろいろとありがとう。
もう天上界に帰っていいわ。でも、最後に一つだけ願いを叶えて。
とにかくなつみに会いたい。どのような形でもいい。そうだ、今すぐがだめなら、5年、10年先でもいい。成長したなつみに会いたい」
その願いは、子供を愛する母親の悲痛な叫びにも似たいちずな知恵だ。
天使が光を発すると、それは、温かく黒川を包んだのだ。
「死にかけている人を救えないなんて、実は、私も天上界の規則には疑問なんです。
貴方の願い叶いますよ。あっ、でもこれ、あまり人に言わないで下さいね」
天使は黒川の耳元でささやくと微笑んだ。
 
 やがて映像は終わり、黒川が再び話しを続けた。
「でも願いはちゃんと叶ったんです。ちょうどその頃、新薬が出始めて、奇跡的に回復したんです。こうして今でも生きている。
でも、子供を失った寂しさは穴埋め出来なかった。
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