エレーナ再びそれぞれの想い
シュウは激しい雨の中、護身刀を持ったままその場にひざまずき、山の向うまで
届きそうなほどの大声を張り上げた。
その時だった。
唸るような地響きと激しい震動が近づいてきた。
「まずい、また来る!」
プリシラは地べたに座ったままのシュウと共に、上空に瞬間移動。
直後に轟音をとどろかせ、泥の塊が濁流となって再び、実家のあった場所を襲った。
「いやぁぁぁぁー!」
シュウの悲鳴がむなしくこだまし、土砂は非情にもその地を再び洗い流して行った。
「こんな時にエレーナさんがいてくれたら」
プリシラは心の中でそう叫んだ。
「でも今は、私しかいない。私が頑張らなければ」
プリシラは気持ちを奮い立たせると、瞬間移動をしてシュウを学校まで連れ戻した。
寮のシュウの部屋。
大声を張り上げ泣き叫ぶシュウ。
プリシラも、こんなシュウの姿を今までに見た事がなかった。
何を話し掛けたらいいのか分からず、手の施しようがない。
「エレーナさん、早く帰って来て!」
プリシラは胸の内でそう叫んだ。
叫び声を聞きつけて、佐倉先生やクラスメイト達が駆けつけて来た。
シュウは大声しか発する事が出来ず、言葉にならない。
プリシラは、シュウの実家が土砂崩れで流され、家族が行方不明になった事を話した。
「そんな……」
「ひどい。可哀そう」
クラスの面々から声が上がった。
「白川君、落ち着いて」
佐倉先生がなだめるがシュウは荒れるばかりだ。
そこへエレーナが帰って来た。シュウの執事、中沼もなぜか一緒だ。
「エレーナさん、今までどこへ行っていたんですか! ご主人様が大変なんです」
プリシラは今にも泣きだしそうな状態となった。
「ここに戻って来る途中、中沼さんと会いました。
実家が流された事は中沼さんから聞いています。
プリシラさん、独りでよくここまで頑張りましたね。
後は私に任せて下さい」
エレーナは、プリシラを労うと、シュウを落ち着かせようと、抱きしめた。
エレーナの翼がシュウを優しく包みこみ、暖かい光がシュウに降り注いだ。
シュウは静かに眠った。
シュウの手には護身刀が握られたままだ。
「中沼さんはどうして無事だったんですか?」
プリシラが聞くと、
「私は用事で白川家を離れていたので、難を逃れました。
白川本家が流されたのをテレビで知って駆けつけてきました」
「そうだったんですか」


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