泣きたくなるような声
「泣いてるんだろ」
「だって、なんだか、不安定になっちゃって。声とか言葉とか聞いたら」
詰まった声。
「あー、側にいたらなあ」
もらす俊一の声にまた泣きそうになる。
そういう、優しい言葉は苦しい。でも、嬉しい痛み。
泣かない、泣かない。
そう思って電話したのに、彼の声を、言葉を聞いたら、そんなのいとも簡単に、崩れ去ってしまった。
まるでダムの決壊だ。
「俊一の声ってば」
「俺がどうしたって?」
ずるい。
そう言った私に「ずるいって何だよ」と笑う声。
ほら、また。
きっとこの複雑な気持ちは、俊一にはわからない。
とにかく、こう、ずるいのだ。勝ち負けじゃないけれど、負けた気分になる。
「大丈夫か?」
とくに俊一の声は、今の私にとって泣きたくなるような声だった。
それでいて、ひどく心地よい。
私はそんな泣きたくなる声に
「ありがと」
と小さく言葉を発する。
了
12/08/28
