第5章
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「ああ、鶴岡先生。おはようございます。いつもお世話になっております。新民党の岩原でございます」


 九月半ばの午前十時前、俺の運転するリムジンは岩原の自宅前に着き、後部座席に座った岩原がスマホ片手に口を開く。


 鶴岡はすでに国会内の事務所にいるようだった。


 ――岩原君、大丈夫なのかね?君の事務所経費疑惑は。


「ええ、たかが二億です。私にとっては小銭ですから」


 ――まあ、確かにそうだろうな。君ぐらい長年永田町の水飲んでる人間にしてみれば、二億などはした金だろうが。


「それより先生、次の衆院選前に社自党藤井派の議員たちと我々新民党の岩原グループの同志たちが連携し、新党を結成する手筈なのですが、先生は新民党に残られるのですか?」


 ――あのね、岩原君。君は一体何考えてるんだ?今の新民党にいれば君は将来の総理候補なのだよ。それを離党などして、あえて棒に振るようなことして。


「先生は今の川浪総理が新民党の作ったマニフェストを守れてないことはご存知でしょう?実際、川浪は社自党と組んで増税法案を通しましたし」
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