第6章
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 その日の午前十一時前、俺の運転するリムジンは永田町の議員会館に辿り着いた。


 閉まっていた後部ドアを自動で開けると、座っていた岩原が立ち上がる。


 そして会館前で合流した他の新民党の国会議員と一緒に、鶴岡事務所へと向かった。


 今は陰で国を動かすような人間が、二億円の事務所経費疑惑で揺れている。


 この男にとって、二億などわずかな金だ。


 小銭に等しい。


 だが世間はそう見てない。


 岩原の金銭スキャンダルは大新聞が連日書き立てていた。


 俺も正直なところ、この男がその手の報道で参ってないかどうか、気に掛けている。


 何せ一応現段階では自分の主だ。


 それに地元選挙区では絶大な人気を誇る。


 その人気は<大殿>と呼ばれていた父宗二の時代からずっと続いていた。
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