君は俺の嫁
プロローグ
いつものことながら、制服のポケットが重い…。
比呂はうんざりと溜息をつく。
ズボンのポケットは左右どちらも、パンパンに膨れてしまっていた。
少し繁華街を歩くといつもこうだ。
ありとあらゆる業界のスカウトマンから渡される名刺、名刺、名刺。
やれモデルだ、アイドルだ、俳優にホスト…
皆、比呂の容姿を目の当たりにするとすごい勢いで群がってくる。
それもそのはず。
比呂はちょっとお目にかかれないくらいのイケメンなのだ。
少し垂れがちの目は色気を放ち、薄い唇の口角を不機嫌そうに下げているのがかえって魅力を増している。
ハーフかと見間違うような目鼻立ちだが、純日本人だ。
身長が少し伸び悩んだ感があるが、そこに親しみやすさがある。
髪は今時珍しく真っ黒で、風が吹くと柔らかくサラサラと揺れた。
雑踏の中で、比呂の存在はよく目立つ。
スカウトマンが群がるのも無理はない。
だが、一応名刺はもらうものの、比呂は芸能関係一切に興味がなかった。
比呂の興味は、ただ1人の女の子に注がれている。