大嫌いなアイツ
 


―――バス停に着くと、吉野の足が止まった。


…やっぱり、吉野は私を送ってくれてる…?


何も言わないけど、バスが来るまで一緒にいてくれるってことなのかな…。
まさかの展開すぎる…。


夜の10時を回っていて、道には人影も車の流れもほとんどない。
リーン…リーン…という虫の音が、秋を感じさせる。
この音とか空気とか、すごく好き。


「…いい音。」


ポツリと吉野が呟く。


意外だった。
そんな感性あったんだ。
…って、その言い方は失礼すぎるか。


吉野のことを見上げて、答える。


「だね。」


同じように感じていたことが何か少し嬉しくて、顔が緩んだ。


「……………初めて。」

「え?」

「初めて岡部さんの笑顔見た」

「!うそっ!そんなことないでしょ!?」

「そうそう。いっつもそんな顔してるから」


そんな顔ってどんな顔よ?と、頬に手を当てて眉間に皺を寄せた。
その時。


「―――…」


―――ドキン


ふ、と吉野が笑った。
私に向けられる2回目の笑顔だった。


「…ほらね。すぐそういう嫌そうな顔する。岡部さん、俺のことキライでしょ」

「はっ!?」


ビックリした。
面と向かって言われるなんて。


私の驚きに、吉野がクッと笑った。
ちょっと気まずくなって、私は吉野から目を反らして、首を横に振る。


「べ、別に、そんなこと…ないよ」


………今は、だけど。
確かに少し前までは吉野のこと、嫌いだと思ってた。
でも今は少なくとも、“キライ”ではない。
むしろ―――…

 
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