想 sougetu 月
 なんとか階段まで歩き、しゃがんで一階を覗き込んでみるが、やっぱり1階も真っ暗だった。
 斎はどうしたんだろうか?

「斎?」

 確認の意味もあって斎の名前を呼ぶと布の擦れる音が少し聞こえた。
 あの音はリビングにあるソファーの擦れた音。

 やっぱり斎は下にいたのだ。
 でもどうして電気も点けずに?

 そんな疑問が湧き上がり斎が心配になる。

「……斎、足が痙攣して降りられないの。こっち来て?」

 もう一度声を掛けるが、しばらく待っても斎の姿は現れない。
 まだ怒っているのだろうか?

 もう1度、斎の名を呼んでみるが物音はもう聞こえなかった。

「そっちに行くけど。階段をちゃんと降りれる自信がないの。もし途中で落ちちゃったら斎助けてね?」

 私は小さく呼吸し、気を引き締めて震える足を叱咤する。
 力が抜けそうになる腰に意識を集中して、震えるつま先を必死に伸ばして階段へ足を踏み出す。

「やめろ月子、落ちる!」

 いつの間にか階段の下にいた斎が私に向かって手を伸ばしながら階段に足をかけていた。

 斎はあっという間に私の側まで上がってくると、落ちないようにしっかりと背中から私を抱きしめる。
 
「斎……」
「ばか月子……」

 私をばかと言っている斎の声は少しだけ寂しそうだ。
 私は黙って腰に回している手に自分の手を重ねた。

 指先から斎の気持ちが私へと伝わればいいのに……。
 
< 82 / 97 >

この作品をシェア

pagetop