想 sougetu 月
 最初はただゆるく抱きしめているだけだったが、斎は腰に回した腕に力を入れると少しだけ私を持ち上げ、そのまま斎の部屋へと運ぶ。
 あれよという間に運ばれ部屋のベッドの上に下ろされる。

 斎は部屋の照明ではなく、優しい光を放つルームランプスタンドを点けた。

 明かりの眩しさに少しだけ目を細めると、斎はそんな私にかまわず背を向け、クローゼットを開けガサガサと音を立てて何かをし始めた。

「斎?」

 声をかけたとたん、斎はこちらを振り向く。
 その手には収納箱の引き出しが丸ごと1つ。

 斎はそれを私のすぐ側で少しだけ乱暴な態度で中身をひっくり返す。

「きゃっ!」

 驚く私を無視して、引き出しを床に投げ捨て、またクローゼットへ向かう。

 何をばら撒いたのかと思って視線を下げたとたん、ばさりと頭に何かを投げつけられて視界が真っ暗になる。

「ちょっ……ちょっと!」

 痛みはなかったものの抗議の声をあげ、投げつけられたものを頭からどかすと、それは私が斎にプレゼントした手編みのセーターだった。

 すぐ側に、同じく手編みのマフラーや手袋なども落ちている。
 私が編んで斎にプレゼントしたものばかり……。

 どうしてあげたプレゼントを?と思っていたら、いつの間にか斎は机の前に立っていて、引き出しから箱を出していた。

「これで最後だ」

 斎はそれだけ言うと、また私のそばに箱の中身をひっくり返してばら撒く。

 いったい何がしたいのかと思ってそれらを見た瞬間、思考が停止した。
 
< 83 / 97 >

この作品をシェア

pagetop