君がいるから
"さっどうぞ"と、焼き菓子が入ったバスケットがカップの横に置かれる。
「本当に何から何まで、ありがとうございます」
座ったまま、ジョアンさんにお礼の言葉と共に頭を下げた。ここに来てからアディルさんやジョアンさん、王様にもお世話になりっぱなしな私。元の世界に帰るまでに、私が出来ることを考えなきゃいけない。
「でも、私ったら恥ずかしいですよね! 汚れた制服のまま食事したりして」
声を上げて笑い、顔を赤らめ濡れた頭を数回掻き撫でる。すると、ジョアンさんがフフフッと声を漏らした。
「それは、アディル様が悪いですわね」
そこで何故アディルさんが出てくるのかと、不思議そうに首を傾げる。そんな私の姿を見てジョアンさんが、再び小さく笑い声を漏らした後、口を開く。
「本当は医務室に運びこまれて来た時、アディル様は心配と焦りの表情を浮かべてらっしゃいました」
(アディルさん……)
「治療が終わって安定した頃に、あきな様のお召し物が汚れておいででしたので着替えをさせようと思ったのですが……アディル様が一時もお傍から離れなかったんです」
(……え?)
「ただ黙って、手を握ってあきな様を見つめておいででした。どんなに周りの者がお声を掛けても、アディル様の耳には届いてらっしゃらなかったようで」
「アディルさんが……ずっと傍に?」
「はい。それで仕方なくそのままに。お食事の時にでもお話すればよかったのですが、アディル様の雰囲気が何処となくそうさせてはくれなかったので……。きっと、このお話を目の前でされたくはなかったのでしょう」
アディルさんはずっと私の傍にいてくれた。そう思ったら、胸の奥から聞こえてくる音。自然と胸元へ手が伸び、きゅっと結ぶ。
「あきな様? どうかされましたか? まさかまだ体調がよくなってないのでは……」
「あっ何でもないです! 大丈夫です」
ジョアンさんの心配を含ませた口調の問い掛けに、目を泳がせながらカップへと手を伸ばして口をつけた。
「でも、あまり無理なさらないようにして下さいまし。まだ、お食事まで時間がありますのでゆっくりお体を休めて下さいませ」
「っあの!」
丁寧に一礼をして部屋を出ていこうとするジョアンさんを呼び止め、カップを置き腿に両手を乗せた。
「ジョアンさんにお願いがあります」