君がいるから


 目を小さく瞬きをした後、そっと見上げようとした時――今度は真上で弾み、それが隣にいるジンの掌だと気づく。

「泣きたい時は泣けばいい。そうやって、無理をするな」

 ジンの声に反応し見遣ると、漆黒の瞳は私に向けられることなく、ただ前方だけを見据えている。次第にじんわりと伝わってくるジンの掌の重みと温もり。心地よく感じて、強張っていた頬が次第に緩み、口端をゆるやかに上げて唇を開く。

「ありがとう、ジン」

 私の言葉に答えるように、漆黒の瞳が向けられた。ほんの数秒――瞳同士が出合ったけれど、逸らされてしまう。そして、頭から重みが遠ざかったと思えば、突然歩く速度が増したジンに驚く。

「え!?」

 突然の事に、私達の距離が開いてしまい、慌ててジンの背中を追う。

「ジン!? 突然どうしたの!?」

 私とジンの一歩一歩の歩幅が違うのに、速度を上げたジンの背中にちょこちょこと小走りになりながら訴えた。けれど、ジンには耳に届いていないのか、スピードを緩めるどころか更に増していくような気さえする。そんなジンの背中を必死に追いかけながら、何か怒らせることでもしてしまったのかと不安が過ぎ、やっとのことでジンの隣に並び顔を窺った。

(ねぇ、ジン。薄暗くてはっきりと見えなかったけど、時々窓から差し込む月の光で見えた時ジンの――頬がほんのり色づいて見えたのは、月灯りのせいだった?)




 この時――。
 あきなの左手薬指に通された指輪に埋め込まれた赤い石が、何かを警告するように赤い光が淡く点滅していた事に、あきなもジンも知る由もない。



   Ⅵ.指輪 完


< 165 / 442 >

この作品をシェア

pagetop