君がいるから
Ⅹ.芽生えた小さな想い


   * * *


「おーいっ。こっちも木材が足りないぞーっ」

「水も足りねーなー。いっちょ汲みがてら、そっちの木材も頼んでくるぜ」

「おーっわりぃなぁ。頼んだ!!」

 お城のあちらこちらで飛び交う声。それから、資材を持ち忙しく動き回るお城の人達。
 あれから3日――あの銀髪たちが去ってから、3日という時間が流れた。



「シェヌお爺さん。これは、ここでいいですか?」

「あぁ、あい。ありがとう、そこに置いといておくれ」

「はい」

 にっこりと微笑むシェヌお爺さんの返答に、綺麗な冷水が入れられた銀のボウルを木の台に置く。

「ここはもう大丈夫じゃよ。少し部屋で休んだらどうじゃ?」

「私のことなら気にしないで下さい。それに、私は大したことやってないですから」

「ここ3日、ろくに休んでないじゃろ?」

「私だけじゃなくて、みなさんもですよ。それじゃ、これからレイの所に行ってきますね」

 少し眉尻を下げているシェヌお爺さんをよそに、軽く頭を下げ足早に部屋を出て行こうとすると。

「あきなや」

「はい」

 呼び止められ振り向くと、シェヌお爺さんが綺麗な小瓶を差し出した。

「これを持って行きなさい」

「え? これ……なんですか?」

「もし、レイ様がまた食事をされなかったら、これを飲ませてくれんかのぅ。レイ様用に調合した栄養剤じゃ」

「はい、分かりました。――レイは何も口にしてくれなくて、ジョアンさん達が心配してます。誰とも口を利かないようだし」

 皺寄った手から小瓶を受け取って見つめながら、ぽそり呟く。シェヌお爺さんの顔をそっと見ると、お爺さんも少し困った表情を浮かべている。

「あの、お方も心に闇を抱えている。それを解決出来るのは、己でいずれ答えを見つけ出すしかない」

「闇を……抱えてる」

「わし等には何処か距離を置き、人と関わることを恐れておる。それは、あの男と似ている部分もあるんじゃがな」

 あの男って――。

「あきな」

「あっはい」

「お主は深く考えんで、そのままのお主で接してあげればいい。それが終わったら、ゆっくり体を休めなさい」

 私の頬に伸ばされた、油分が少ない掌が数回弾んだ。


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