君がいるから
(寝てる――んだね。最近、夜も眠れてないみたいだったから、よかった)
膨らみが一定のリズムで上下に動くのを確認し、この部屋の主が目を覚ますのを待つことにし、傍に置かれた椅子にそっと腰掛ける。ほぉ――息を漏らすと共に肩から力が抜けていく。
(静か……だなぁ)
静寂――ただ、規則正しい呼吸音だけが耳に届く。薄暗くて、本の匂いと空気に混じったツンとする匂いが、呼吸をする度に体に染み込んでいく。
カツン カツン
静寂が漂う中、瞼が重く閉じかけた時。
カツンッカツンッカツカツカツ
音がしたのちに、ザーッ――と激しい音がたち始めた。静かに腰を上げ、天井から吊り下げられた厚手の布を捲り、窓外へ目を向ける。視線の先には、鈍色の雲が空一面に広がり、辺り一面に大きな粒が空から地へ落ちていくのがはっきりと見える。風が時折吹く度、窓硝子に大粒の雨が打ち当たっては一筋の跡を残しながら、下方へと滴り落ちていく。
「また……雨……」
この光景――3日前の惨状が頭に過ぎらせ、顔を顰め目を伏せて、こつん――頭を窓硝子に当てた。
「人の部屋で何してんの、あんた」
背後から届いた不機嫌さが混じった声に、慌てて振り返る。今の今まで上掛けを覆っていた人物が、片膝を立て上半身を起こしていた。私の方を見ることなく、彼の視線は下方を向いている。
「レイ、ごめんっ。折角眠れてたのに、起こしちゃったね」
慌ててベッドサイドへ戻り、椅子に再び腰を下ろす。
「また、雨降ってきちゃったみたい」
「…………」
「どう? 体調の方は」
「…………」
「あのさ、さっきここに来る前に、メイドさんとすれ違って聞いたんだけど」
「…………」
「朝も昼もあまり食事、喉通らなかったんだね。もう少しで夕ごはんの時間だけど。お腹空いてるんだったら、今持ってこよっか!? それか、何か食べたい物があったら――」
ドンッ!!
レイに問いかけた直後だった――突然の音に、体が反応し動きが止まる。目の前には、拳をベッドに叩きつけているレイがいた。