君がいるから
「あの男に、一体何をさせるおつもりですか」
ただ黙って聞き、瞳に映していたラスナアが口を開き問う。装飾が施された玉座の背もたれに背を預けた男は、白く長く細い指先で己の唇を形をなぞりあげる。
「ラスナア」
「はい」
重低音の声に粟立つラスナアの肌。ただ己の名を呼ばれただけだ――いつまでも慣れない己に腹が立つ。こんなことで、息を飲んでしまう自分はこの方の右腕となるには、まだまだだと実感してしまう。
「早急に例の事を済ませよ。全ての準備が整い次第――お前にもまた動いてもらおう」
「全ては貴方様の仰せのままに」
「そろそろ動き出す。全ては我の手中にあるのだ」
己の掌を見つめ、細く長い指を一本一本折っていく。
――さぁ、動き出すがよい。全ては我のものだ。あの我を拒絶した力が必要だ。さぁ、早く我の元へ。
――早く、あの瞳に我を映したい。
まだまだあれは序の口。今は夢を見られる猶予をやろうではないか。
――暗闇の中、身を潜めるようにして柱の影に隠れていた1つの影が静かに身を翻し、この場を後にした。
* * *
「自分はこれで。部屋の外に代わりの者が待機しておりますので、何か御用がある際には声をお掛け下さい」
「はい。ありがとうございます」
ぱたん――他の部屋とは違う装飾が施された扉を静かに閉め、頭を預けた途端に口から息が零れてしまう。ほんの少しの間そうした後――おもむろに窓際へと足を進める。窓外を見遣り、まだまだ勢いを衰えず降り続けている雨。額を硝子に当てたら、ひんやりとしていて私の額の体温を徐々に冷ましていく。
「取り入る、かぁ……」
(アッシュさんには、私の行動一つ一つがそう映って見えていたんだ。この言葉も何度言われてきたんだっけ……)
私はどれだけの人にそう思われてるのか。どんな風に見られているのだろうか。時々4年前のことを思い出してしまうのは、私がまだまだ弱者だからなんだろう。いつまで経っても自分が情けない。きっと誰もがちっぽけなものだと笑うのかもしれない。
その時――背後から扉の開閉音がし硝子から額を離す。硝子越しに見慣れた姿が目に入り、今しがた思考していたことを掻き消した。