君がいるから


「嫌な予感がする。久々だな、この感じは……。これが唯の思い過ごしであってほしい」

 あのお堅い騎士団長は、何でもないことでも異常に警戒してしまう。それはこの国を王を想っての行動だ。しかも、無茶をしてしまうアッシュの性格を分かった上で、伝えることが出来なかった勘。
 そして、あきなの素性が知れない今、言ってしまえばあきなは確実に行動を制限される。ギルス達は既に『何かを仕掛けたのかもしれない』が、アッシュはそれ以上に警戒し、少しでも妙な行動をすれば確実にあきなへ刃を向けかねない。そう思い、伝えなかった。
 先程、アッシュが言ったように幼い頃からアディルの『勘』は驚くほど当たってしまう。本人さえどうしてか分からず、親族にそういった力を持つ人物はいないのにも関わらず。ただ、自分がそう感じてしまえば必ず現実になっていくことが多かった。

「そろそろ部屋へ戻るか……」

 左右の肩を片方ずつ前後に回しながら、自室へと足を向けた。

「あきな……か……」

 ふいに漏れた声と微笑、その事に気づかずアディルもまた暗がりの中へと消えていった――。






 私にとって長く思えた1日が終えようとしていた――。こんなにも1日が長く感じたのは初めてだと思う。そして、明日から私の知らない世界での生活が始まろうとしている。
この夜、中々寝付けずに飽きるまで紅い月を瞳に映し続けた――。





   Ⅱ.異世界の少女 完



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