マザーリーフ
「久しぶりー。」

「元気だったー?」

中学生の頃にあっという間に戻り、手を取り合って喜んだ。

あまり喋ったことのなかった男子たちにも「久しぶりー」と声をかける。

桃子の仲良し4人グループのあとの二人、恵子と和美は来ていなかった。

その時、司会者が言った。

「次は武藤葉子先生、いえ、ご結婚されて斎藤葉子さんになられました。一言お願いします。」

桃子は、はっとしてスポットライトに照らされた人物を見た。

むーちゃんだった。

一際高い拍手が起きた。

武藤のショートヘアに大きな二重まぶたの目。変わってない。

少しだけ目尻にしわがあった。

武藤は、マイクの前に立ち、

「今日はお招き頂きありがとうございます、本当に嬉しいです、今は故郷の山梨に住んでいます…」

と挨拶をした。

桃子は元気そうなむーちゃんの姿が見れて嬉しかった。


「よお。」

誰かか桃子の肩を軽く叩いた。

桃子が振り向くと潤がいた。

潤はTシャツの上に水色のシャンブレーシャツを羽織り、濃いベージュのパンツというラフな服装だった。

女子とは違い、男子はラフな格好をしたものが多かった。

潤は、片手にビールを持ち、人懐こい笑顔を見せた。

9年振りの再会だ。

潤は髪が伸び、はっきりした目と太い眉は少し優しい感じになっていた。

相変わらずスタイルのいい男だ。

「シドニー以来だね。元気だった?」
潤は言った。

「うん、元気元気。潤は?」

シドニータワーからの帰り道にもらったアドレスを無くしてしまったことを言おうかと思ったが、やめた。

「俺ね、元気だよ。先月、米子からこっちに戻ってきたばかりなんだ。5年も行ってたんだぜ。ひでー会社。」

「米子って鳥取?」

「当たりめーだろ。米子馬鹿にすんなよ。」

「馬鹿になんてしてないってば。」

潤は快活なところも変わっていない。

中学生の時から先生たちも生徒たちも潤のことを「潤」と呼んだ。

みんな潤の苗字が「田宮」だということを忘れているみたいに。


潤は、他の同級生に話しかけられて、どこかにいってしまった。

残された桃子は、武藤葉子が真ん中の恩師たちのテーブルに1人で座っているのが目に入り、話しかけた。

「あの武藤先生。永瀬です。お久しぶりです。」

「あー。」

むーちゃんが大きな目をさらに見開いた。

「永瀬さんね。元気そうね。今、何してるの?」

「主婦です。三歳の子供がいるんです。今日は実家に押し付けてきちゃいました。」

「またには息抜きしないとね。わかるわ。うちはもう高校生だから、放ったらかしだけど。」

むーちゃんは、うふふと笑った。

ママ友と喋っているみたいだった。


誰かが横からむーちゃんにはなしかけて、そこで桃子との会話は終わった。


桃子は武藤の目を見ながら、ふと思い出していた。

あの日教室で見た、涙に濡れた彼女の虚ろな瞳を。

武藤は、そんな事などなかったように見事な再生を果たしていた。
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