夜明け前


二人の心に鍵がかかってしまわないように、固く閉ざされてしまわないように、恐る恐る話しをしていたから、珠花のこの反応には驚いた。


「…あ、あぁ、えっと」


だから、ぐっと構えて慎重に話しをしていたから、思考の切り替えを素早く出来なかった。


「…いいのよ。会っていいの」


そうしてパニックっていると、聞こえてきた翔子さんの声。


―そうだ、珠花が目覚めたって呼んだんだった。


それも随分前だ。


…話、聞いてた、よな。


「翔子さん…」


そう名前を呼びながら彼女の方へ振り返れば、彼女は俺を軽ーく睨んで、こう言い放った。


「…遅いのよ。もっと早く言いなさいな。世話が焼けるわね、姉弟揃って」


そう言うのは、彼女の優しさ。


「…朔乃くん、本城のお家に行きなさい。私が言ったことは気にしなくていいの」


「…翔子先生…」


「いつでも会えるし、ほら、携帯買ってあげる、そうすればいつでも連絡できるわ。ね?」


「…翔子先生」


「…なぁに?珠花ちゃん」


「…電話したら、女の子の悩み事、聞いてくれる?」


「…ふふ、もちろん。美味しいスイーツ食べながら、でしょう?」


本当に愛しそうに、二人を見つめるこの人は、俺達家族よりも傍で姉を見守り、姉を知る人。


< 84 / 145 >

この作品をシェア

pagetop