黄昏バラッド
「なんであいつがこの街に帰って来てるって知ってんのに俺に教えねーんだよ」
「………」
鉄さんはなにも言わず濡れたコップをタオルで拭いていた。
多分その理由は尚さんがサクを殴りに行くからだと思います、なんて言えるわけないけど。
尚さんは苛立ちを隠しきれず、貧乏揺すりまでしはじめた。
「俺はな、あいつに言いたいことが山ほどあるんだよ」
カウンターのテーブルを強く叩き、店内にいるお客さんが不審な目で見ている。
それに気づいた尚さんは被っていたキャップをさらに深くして、顔が見えないように椅子を動かした。
「亮にも亮のタイミングがあるだろ。気持ちが固まればその内顔を見せに来るよ」
鉄さんは本当に冷静だ。
――『逃げても逃げても逃げられねーなら受け入れろ!!』
『それができないなら泣けよ。苦しいって忘れられないって俺らの前で泣けよ!亮!!』
きっとあの言葉を言った鉄さんにはサクを待つことしかできないから。
それでもやっぱり尚さんは納得いかないみたい。
「あ?その内って5年も経ってんだぞ?そんなんじゃ歳だけ取ってなにも変わらねーよ」