くだらない短編集
死んだおうさま





■死んだおうさま■




奴が死んだ。皆喜んだ。支配から逃れられた と、皆が盛大な祭りを催した。

色とりどりの花が街を覆い、優しい歌が空を 染め上げる。子供達は笑って手をつなぎ、父 親達は勝利の祝杯をあげる。全てに顕れる幸 福の色。ラッパが音を羽ばたかせ、猫が眠り、世界がぐんと背伸びをする。

奴が死んだ。皆喜んだ。

だけれど独り佇む女は思う。きっと彼等は知 らないのだ。奴に心臓が在ったこと何ぞ。奴 がどれだけ彼等を思っていたのか何ぞ。

奴が、あいつが、あの方が、どれだけ彼等を 想っていたか何ぞ。

欠片さえも、知らないのだ。




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