帰る場所[短編]

次の朝、パンの焼ける香ばしい匂いに誘われて、布団から出ると、いつも俺の部屋に泊まったときのように、二人分の朝食を用意して美羽が待っていた。


いつもと変わらない朝。

それを壊したのは、美羽の、

「3ヵ月くらいね、アメリカに行こうと思うの。」

という一言。


「え…?」

「日本は見尽くしちゃったから、海外もいいかなぁーなんて。」


美羽は、静かに微笑んでいたけれど、その瞳の奥に光はなくて、虚ろだった。


「美羽?何かあった?悩みがあるなら言ってみてよ。」

俺は必死だった。

美羽を引き止めることに。

何とか説得して、日本に残らせなきゃ、美羽はいつかの俺の不安のように消えていなくなってしまう。


漠然とした不安ではなくて、確信だった。

前に日本中を旅したいと美羽が言ったときにはなかった感覚だった。


でも、美羽の決心は固くて、俺が説得したくらいじゃ全く動かなかった。




「向こうについたら手紙書くね。」

その朝から2週間後、美羽はそう言い残して旅立ってしまった。

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