バイナリー・ハート


 夜の八時を過ぎた頃、少し渋い顔をする副局長に別れを告げて、ロイドは局長室を後にした。

 科学技術局には研究室が並ぶ本館と、成果物が並ぶ別館とがある。

 本館は局員でさえ厳しく出入りが制限されているが、別館は見学コースにもなっていて、一般人でも事前申請して許可が下りれば、成果物を使用する事も出来る。

 臨床試験を終えた広域人物捜索装置は、この別館に並べられていた。

 局長室は科学技術局本館の一番奥にある。
 両脇に研究室の並ぶ長い廊下を、ロイドは別館への渡り廊下に向かって早足で進んだ。

 各研究室は、まだ誰かが残っているらしく、ほとんど灯りが点いている。
 その中にひとつだけ、昼夜を問わず灯りが消えたままの部屋があった。

 以前、ランシュが住んでいた部屋だ。

 消息が掴めていないので、二年前からそのままの状態で放置されている。

 その部屋は元々研究室のひとつだったらしく、出入口には他の研究室と同様に厳しいセキュリティが施され、今では開かずの間と化していた。

 灯りの消えたこの部屋が、否が応でも局員たちの記憶にランシュの存在を浮き彫りにする。
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