バイナリー・ハート


 いつもより早く起きてしまったのに、今日は休みなので店に並べるケーキを作らなくていい。

 味噌汁に入れる野菜を花の形に切ってみたり、余計な手間をかけながら、ゆっくりと朝食の支度をしていると、空が白み始めた。

 すっかり夜も明けた頃、結衣がのんびりと朝食の支度をしているキッチンに、ランシュがやってきた。

 いつもと変わりなく挨拶をして、手伝う事はないかと尋ねる。


「休みなのに早く目が覚めちゃって、もう終わったの。座ってて。お茶淹れるから」


 結衣がそう言うと、ランシュはクスリと笑った。


「ユイは変わらないね。オレが飲んだり食べたりする必要ないって分かってるのに、お茶淹れてくれるんだ。ゆうべも夕食の心配してたし、ケガの手当をしようとするし。もっと怖がったり戸惑ったりするかと思った」

「だってランシュは変わってないもの。元々怖くないのに、怖がりようがないわよ」

「ふーん」

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