バイナリー・ハート


 それでもベルは、頑なに病院に行く事を拒んだ。


「今思えば、おばあちゃんはオレを守ろうとしてくれてたんでしょう。オレが病院や役所に近付かないようにしていたのを知ってたから」


 歩行が困難なベルを気遣って、ランシュはいつも、ベルが外出する時には付き添っていた。

 けれど病院や役所に行く時だけ、いつも理由を付けて途中までしかついて行かなかったらしい。

 日に日に衰弱していったベルは、風邪から肺炎を誘発し、死に至った。


「おばあちゃんはオレの主でした。オレに絶対命令がない事を知らないから”命令だ”って言われれば、従うしかありません。そう自分に言い聞かせて、保身のために”少し休めば治る”という言葉に甘えただけです。オレに絶対命令があったなら、自分の身よりも、命令よりも、おばあちゃんの命の方が、優先順位は高いはずなのに」


 一層俯いたランシュの目から、水滴がこぼれ落ち、カップを握る手の甲を濡らした。

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