バイナリー・ハート


 ロイドは少し目を見張る。


「驚いたな。おまえは涙も流すのか」


 ランシュは俯いたままつぶやく。


「そんなの当たり前でしょう。悲しい時に泣けないなんて、余計に悲しくなるじゃないですか」


 ベルはランシュがロボットである事を、始めから知っていた。
 ランシュはベルに、主に捨てられたセクサロイドだと告げていたらしい。

 人でないなら、カードが使えない事の言い訳が立つからだ。

 ベルのカードを勝手に使ったのは、ユイの店に来た時だけだという。
 カードに細工をしたのではなく、無線通信で認証装置のプログラムに干渉し、ごまかしていたようだ。

 高熱で思考力の低下していたベルは、ランシュが毎日ユイのお菓子を持って来ても、大して疑問に思っていなかったらしい。

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