大地主と大魔女の娘


 嫌だなと思った。

 今すぐに下ろして欲しい。

「掴まれと言っただろう?」

「下りたいです、地主様」

「下ろしてどうする。置いて行かれてもいいいのか?」

 彼は脅したつもりだったろうが、私は迷わず答える。

「はい、地主様」

「杖が無いだろう」

 大きく頷いたが一蹴された。

 またそれか、と思いため息が零れる。

 最近の彼は私から杖を取り上げる事を覚えてしまった。

 何かにつけて文句を付けては、杖を取上げられるのだ。

 そうしてさっさと私を抱えてしまうのだ。


「杖を突いて歩くと敷き織物が傷む」だの「夜は音が響くとうるさい」だの「女のくせに手にマメができる」だの。

 どれもこれも、もっともかも知れないが納得の行かないものばかりだ。

 言われる度に、堪らない気持ちになる。


 畑仕事をしていたから、私の手はとっくにマメが出来て固くなっているから手遅れだ。


 彼にしてみたら、女性というものはそういうものらしい。


 それは許された階層の人だけだ。


 間違っても魔女の娘にそんな権利は無いというのに。


 どうやら彼が、私を羽根折った鳥のままにしたいらしい、というのは何となく察しが着く。


 だが、そうしたがる地主様の意図は解らなかった。


 いや。本当は気がついている。気がつかないフリをしているだけだ。


(カラスをあまり人目に晒したくは無いのだろうな)


 泣きたい気持ちを抱えたまま、沈み込む。




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