大地主と大魔女の娘
遠慮なく答えたが、返事は無かった。反応も無い。
代わりに、両傍らに付き添っていた猟犬二頭がくーんと鼻を鳴らして、尻尾をお腹の方に丸めてしまった。
どうしたのだろう?
少し離れていたエルさんは、もっと距離を空けて後方に行ってしまった。
エルさんは俯いて肩を震わせていた。
どうしたのだろう、本当に。
誰にも尋ねる事が出来なくて、すっきりしない気持ちを抱えたまま、ため息を付いてしまった。
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地主様が目指す先に、懐かしい我が家があるのだと気がつく。
いや、もう彼の持ち物になってしまったのだが、我が家には違いない。
懐かしい小道を行く。
振り向けば付いて来ているのはエルさんと、二頭の猟犬だけだった。
やはりあの年若い人は、魔女の住処には近づけないようだ。
これもおばあちゃんの魔法の一つ。
森や魔女に仇を為そうとしたり、敬意を払わないものは森をさ迷うはめになる。
地主様もエルさんも、お付の人が付いて来れていない事を、別段気にしていないようだった。
何も言わずに進んでいる。
『下りたいです、地主様』
『もう少し待て』
待ちきれなくて身を乗り出すと、慌てたように抱えなおされた。
胸のすぐ下からわき腹に掛けて、大きな腕が回されて息苦しい。
腕に手を掛けて、抗議のために足をぶらぶらさせてみた。
『……すまない。だが暴れるおまえが悪い。手元が狂った』
何故かぼそりと決まり悪そうな声が降ってきた。
そう言う割に地主様の腕は動かないままだ。
私が本気でふり払って落ちるとお考えなのかもしれない。
何て過保護なのだろうか。
あまり心配掛けても良くないだろうからと、暴れるのは止めにして大人しく到着を待った。
乾燥した薬草の芳ばしい匂いが、ここまで漂ってくるようだ。
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近付くにつれ、異変に気がつく。
誰もいないはずの魔女の家の煙突から、細く煙が立ち上っているのが見えた。
(お……ばあちゃん?)
―――いるの? 温かいスープを作ってくれているの?
『おかえり』
懐かしい声までが蘇ってきて、ありもしないだろう現実を思って胸が騒いだ。