大地主と大魔女の娘
『おばあちゃん……?』
今は誰も、住まう者がいないはずの魔女の住処。
訪れてみれば煙突からは煙が上がっていた。
時折り手入れのために館の者を寄こしていたが、今日は誰も手配していない。
ならば誰が?
エルに視線を投げると、彼は承知したと頷く。
馬を繋ぐと、魔女の家の裏手に回った。
警戒を怠らず、手には弓を持っていったのを見送る。
付いて来れた犬のうち、一頭はエルの供を買って出た。
もう一頭は俺の側を離れない。
俺自身も馬上から周囲の様子を窺った。
森に入ってから寄り添うように付いてきていたモノの、気配と視線はまだかろうじて感じられた。
いくらか距離を取ったのだろう。
おそらくここはヤツの領域ではないからか。
大魔女の色濃く残る、圧倒的な存在感は彼女が亡くなってからも健在のようだ。
『ここへたどり着けるのは、この大魔女が認めたものだけさぁね』
大魔女のかつて残した言葉が本当ならば、ここへはそうそう悪しきモノは近寄れないようになっているはず。
魔女の娘は、ありもしない可能性を思ってか落ち着かない。
大魔女の死から既に二月(ふたつき)が経過している。
カルヴィナは未だに、大魔女の死を受け入れられずにいるのだと思い知らされた。
彼女にとって絶対であった最愛の保護者の死を、ただの悪い夢だとでも思っているのか。
この調子では――。
大魔女の葬儀に、俺も立ち会った事なども目に入らなかったのは明らかだ。
一体いつになったら、この娘の目は覚めるのだろうか。
馬をつなぎ、逸(はや)るカルヴィナを下ろしてやった。
カルヴィナは素早く、俺へと両手を差し出してきた。
いつもなら俺に頼るのを良しとせず、どうにか自分で下りようと足掻くのだが。
いつにない素直さに苦笑する。
杖も侍女に預けたままで置いてきた。
そのせいか、躊躇いを見せず俺の腕に縋って立つ。
ならばこちらも遠慮なくと、腰を後ろから支えてやった。