大地主と大魔女の娘

祭りのやぐらで


 やぐらの中は静かだった。

 下の方からは楽しそうな笑い声が上がってくる。

 それでもここは独特の静けさが支配していた。


 皆がここを、神聖な場所として設えてくれたからだとも思う。


 天井からは代々受け継いできた織り布が張り巡らされ、神秘的で綺麗だった。

 今年また新たに加えられた物もある。

 それは女達が想いを込めて刺繍した物だ。

 その紋様は主に森の恵みを図案化してある。

 木や、花実や、小鳥や、鹿や獣。

 皆の想いで出来上がった、森の奥深くの神様のすみか。


 それが、このやぐらだ。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


『地主様。でしたら森に住めばいいと思います』

 大まじめにそう提案する。


 一緒にお酒を飲みながら、仮面が外れない理由を考えたり、このままだった場合について話していた。

『そうきたか』

『そう?』

『いや……。何故そのような結論に至るのだ、大魔女の娘?』

『仮面は地主様を選びました。シュディマライ・ヤ・エルマの意思が、そうなのではないかと思ったからです』


『だから外れないとでも?』

『はい』

 こくこくと頷くと、頭にあたたかな重みを感じた。

 地主様の大きな手だった。

 ぽんぽんと二回、あやすようにたたかれる。


『では森に住まうとするか。おまえと一緒に』


 地主様は杯を飲み干すと、床に置いた。 


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 そう言われても、事態が今ひとつ飲み込めなかった。


『一緒に、ですか?』

『そうなるだろう』


 久々にあの訳のわからなさを感じた。

 初めて地主様に連れてこられた時も、このようなやり取りをしたのを思い出す。


 それでも、どうにかお酒を飲み干すことが出来た。


 良かった。


 お役目をやり遂げたに違いない。


 もう、やぐらからは、降りたい。


 
< 260 / 499 >

この作品をシェア

pagetop