大地主と大魔女の娘
今更、そんな事を持ち出すなんてどうかしている。
それでしか縛る方法の無い自分にも笑える。
ここ最近まで、主従の関係など無いのだと思わせるようなそぶりを務めておいて、いざとなったらそれを持ち出す。
思えば希薄な間柄だ。
そもそも始まりからして、それだった。
だったら。
いまさら。
何を取り繕う必要があるのか。
『ジェスは私に対して罪悪感を持っているだけです。ただ、それだけです。だから、もういいよって伝えたくて。他にジェスの事、待っている子がいるのに……。だから! お願いです、地主様。だから、降りなきゃ』
もがいて腕から逃れようとする身体を、思い切り抱き込んだ。
恐怖からか身動きが弱くなった。
そんなカルヴィナの身体を抱え上げ、敷き織り物へと連れ戻した。
そうやって腰下ろせば、やぐらの囲いに阻まれて、外からは見えなくなるだろう。
『あ、あの、地主様を待っている子も、いると思います。一緒に踊って欲しくて。だから降りましょう?』
見当違いの事ばかりを紡ぎ出す、その口を黙らせるにはどうしたらいい?
組み敷いて、その白い喉がのけ反る様を見定めていた。
差し出されるがごとく誘う、そこのどこに食らいついてやろうかと。
口元を寄せるも、仮面が邪魔だった。
仮面の下で唸る。
文字通り、ただの獣でしかない。
甘く香る肌を前に、飢えはつのるばかりだ。
『地主様? どうされたの? お祭り、本当は嫌だったからお怒りなのですか? 無理やり付き合わせてごめんなさい』
ただ、ひたすらに詫びて詫びて許しを請う。
それすらも腹立たしく、獣の本性をむき出しにさせるだけだった。
泣き出したカルヴィナの泣き声も涙も、奪い尽くしてやりたいと思った。
だから宣言する。
『おまえはもう俺以外に嫁に行けないようにする』
顎をつかみ、そらせないようにして見下ろす娘は、忙しなくまばたきを繰り返している。
『お嫁に、行けない?』
見開かれた瞳が瞬くと、涙がひとしずく零れ落ちた。
『もともと……どこの誰にも、行けませんよ?』
魔女ですからと不思議そうに告げられた。
何故、俺がそのような事を言い出すのか、知りもしない無垢な娘。
まるで理解できないといった表情は、最初に連れてきた時から全く変わりが無いものだった。