大地主と大魔女の娘

 馬鹿にしているのだろうか。

 それともこの彼自身が馬鹿なのだろうか。

 馬鹿にされたような気がしないでもないが、あまりに真剣な表情で驚くから本気のようだ。

 おつむは大丈夫なのだろうか、この人。

 そんな心配に気が行っていて、彼の何やら楽しそうな企み顔にまでは気が回らなかった。

 かざされた手のひらに怯む間もなく、頭と顔をもみくちゃにされていた。

「あはは! かわいい、かわいい! お利口さんだな、君、名前は?」

「……。」

 答えていいものかどうか真剣に悩んだ。

 告げたところで彼に理解できるのだろうか。

 地主様たちと同じようなやり取りをした所で、彼が納得するとも思えない。

 しまいには「名乗れない? 何、名前が無いの? だったら名づけてあげるよ!」と本気で言い出しかねない。

 ご勘弁願いたい。

 きっとものすごく、とんでもない名前になる気がする。

 黙ったまま訝しげな視線を向ける。

 彼の唇の両端がぐっと持ち上がる。


「うっわぁ、いい手触りだね。さすが大地主様の所のコは、みんな毛並がいいなぁ」


 みんな?


 他に誰を指して言っているのだろう。

 そこで、地主様に飼われている猟犬たちが浮かぶのは何故だろうか。

 ぐわっしゃ、ぐわっしゃ、と頭を盛大に撫でられた。

 これ、絶対に嫌がらせだ。
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