大地主と大魔女の娘


「ねぇ。君、名前は?」

「名前、は、すみませんが名乗れないのです」

「そう」

 意外にも彼はそれ以上の追求はしてこなかった。

 ただ、ふんと鼻を一つ鳴らしたくらいだった。

「誰にも名乗らず、呼ばせもしないのならば、君は名無しと同じゃないか」

「まぁ、あるにはあるのですが……便宜上、エイメとお呼び下さい」

『娘!?』

「はい」

「何それ」

「便宜上ですから」


 この方も古語の意味が解ったようだ。

 ひとまず馬鹿では無さそうだと安心する。(アホウかもしれないが。)

 大げさに右に左にと、頭を撫でさする手が止まった。

 しかし彼の大きな手のひらは頭に置かれたままだ。

 窺うように見上げると、何やら考え込んでいるようだった。

 そうか――などと呟いている。

「よし! じゃあ君の事はフルル、と呼ぶことにしよう」

「ふるる、ですか?」

「嫌?」


 
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