大地主と大魔女の娘
なるべく落ち着いた声で囁きながら、その首筋を撫でてやると、彼の君は目を細めた。
足元の土を蹴り上げていた前脚も、その場で足踏みするまでに収まっている。
甘えるように胸元に押し当てられた体を抱きしめる。
その額に唇を押し当てると、大きく一息吐く。エイメ、エイメと繰り返し呟かれた。
そうやって、ひとしきり甘えたあと、一角の君はやっと口を開いた。
『そうだ。エイメのために馳せ参じたぞ!!』
『一角の君、どうしてここへ!?』
『ふむ。おしゃべり共に聞いたのだ。何でも来度(こたび)の大会とやらで勝ち抜けば、エイメを花嫁に出来るそうではないか!』
チュィイ! と一羽が甲高く鳴いて、一角の君へと降り立った。
『ええ!? そ、そうなのですか? 聞いておりません』
『何だ、違うのか? まあ、ともかく参ったわけだ。したら、コヤツが勝負を挑んできたのだ。身の程知らずめ』
まだ警戒を解かない一角の君をなだめる。
シオン様は諦めたように剣を下ろしてくれた。
そんな彼に申し訳なく思って視線を向けたのだが、ばっと勢い良くそらされてしまった。
口元に手を当てて、何か呟いているようだったが聞き取れない。
今度はなんだろうかと頭をひねったが、解らない。
もしや、聖句とやらを?
そう思った矢先、一角の君が大きくしっぽを打ち振って叫んだ。
『貴様、エイメをそのような目で見るでないわ――!!』
一角の君のただならぬ様子に、シオン様が再び剣を構えてしまった。
どうしよう! そう慌てふためく私の耳に、遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。
三名顔を見合わせてから、振り返った。
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「エーイーメー!! さまっ!! またあなたはそんな格好で黙って居なくなってっ!!」
そう言うキーラも寝巻きに上着を羽織っただけだった。
やっと自分の格好を自覚した。だがもう遅い。
「ご、ごめんなさい」
安堵と疲れのためか、がくりとその場に崩れ落ちたキーラに駆け寄る。
一角の君が背を貸してくれた。
のぞき込むと、キーラは大きく息を吐いてから呟いた。
「それと……。そちらの御方は、また、新しいオトモダチですか?」