大地主と大魔女の娘


 一角の君はデュリナーダを叱責してから、レオナル様に向き合った。

 何事かを話しているようだったが、ごくごくひそめた調子のようで上手く聞き取れない。


「あれあれ~? また変わったのが出てきたね」

「まあ! 噂に名高い森の奥の幻獣ね。確かエイメを訪ねてきたとか」

「……え? ええ、まあ。はい」


 一角の君は『加勢してやる。ありがたく思え!』そう叫ぶと、デュリナーダへと向き合った。

 レオナル様は無言で頷くと、一角の君と背中合わせに立った。シオン様と向き合う。

 それからは早かった。


 シオン様が体勢を整えるよりも早く、デュリナーダが一角の君の体当たりに突き飛ばされたのと同時に、レオナル様の剣がシオン様の剣をなぎ払っていた!


 キィィィ――ン……!


 剣の重みも負った傷の痛みも感じさせない、鮮やかな一撃に誰もが言葉もなくただた立ち尽くして見守った。


 ドサリと乾いた音がした。シオン様だった。膝をついたのだ。

 右手首を左手で押さえている。


 その姿に一瞥(いちべつ)くれただけで、レオナル様は背を向けた。

 こちらに向かって、まっすぐに進む。


「……勝負あった! 勝者、ザカリア・レオナル・ロウニア!」


 彼の放つ何かに圧されていた空気を、神官長様が振り払ってくれた。

 そこでやっと周りも動き出す。

 割れんばかりの拍手と歓声の中、次に響き渡ったのは一角の君のいななきだった。


 ヒヒィィィィ―――ンン!!


 それを新たな戦いの合図とばかりに、一角の君はレオナル様へと狙いを定めた。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 一角の君の足は素早いだけではない。

 充分に体重を乗せて、たくましい体躯ごとぶつかって行く。

 しかも、その力を集結させるのは鋭い一角の切っ先なのだ。


 ガキッ! ガキッ! と、一角と剣のぶつかり合う音が幾度も響いた。


 
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