「…せっかく来て貰って悪いんだけどさ(笑)、

ちょっと、和ちゃんと二人だけで話させてくれる?」






その時、突然の香澄の言葉に、

貴史は明らかに動揺の色を見せた。






「…って、お前まさか」




「違う、違う。


貴史の困るような事は言わないから」






「…信じらんない」




間髪 入れずに貴史が言った。


和は、貴史が怒っているのでは ないか と 思い、どぎまぎ した。


それまで、勝手に貴史と香澄は仲が良いと思っていたのだが、

実際の二人の やり取りを見ていると、

香澄は ともかく、貴史の方は香澄に距離を置いているように、見える。


そう言えば和に香澄の事を話してくれた時、

貴史は香澄の事を″友達″ではなく″知り合い″としか言わなかったが、

それも何か関係しているのだろうか…。


和が二人について、色々と勘繰っていると、

その間に二人の間では話が着いたらしく、

貴史が病室から出て行こうと している姿が、見えた。






「ま、待って!!」




ずっと貴史が何処かに行ってしまうような気がして ならなかった和は、

ここで貴史を行かせてしまったら元も子もないと思い、

慌てて貴史を呼び止めた。


ついでに体も、貴史を追い掛るため走り出そう と したのだが、

そうする前に香澄に手首を掴まれて、動けなくなった。


振り解いて解けない事も なかったかも しれないが、

病人に対して そんな力を出して良いものか一瞬 躊躇ってしまった隙に、

貴史はドアに吸い込まれるかの ように、静かに出て行ってしまった。






「…そ、宗谷くん…!!


ちょっ…、離して…!」




今度は力一杯 手を振り解こうと しながら、そう叫んだのだが、

香澄が手の力を緩める事は、なかった。


ただ″落ち着いて″と言って、和を自分の方に向かせると、

宥めるように、こう言った。





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