「…貴史は、戻って来るよ」




「…………」




何を根拠に香澄が そう言うのか分からず、

和は抗議しようと、した。


しかし香澄は、和が喋り出すより早く、

素早く自分の言葉を挟み込むようにして、言った。






「話してる間だけ、ちょっと外に行って来るってさ」




「……へ……」




それを聞いて急に取り乱していた自分が恥ずかしくなり、

和は慌てて、香澄に頭を下げる。






「…あのっ、すみません。


私…てっきり、宗谷くんが もう帰って来ないんじゃないか と…」




もごもご と、最後に言い訳がましい言葉を くっつけて言うと、

香澄は見るからに優しそうな笑顔を浮かべて、言った。






「大丈夫。


貴史は、ちゃんと戻って来るよ。




…心配してくれて、ありがとう」




「いえ、そんな…

でも よかった、です」




恥ずかしい気持ちも あったが、

それよりも ほっとした気持ちの方が大きくて、

和は大きく息を吐きながら、答えた。


しかし、

続けて放たれた不穏な香澄の言葉に、

和は息を吸い込むのを忘れそうに なった。






「…でも…、

いつかは、居なくなるよ、あいつ」




「………え?……」






…香澄の言葉の意味が分からなかった。


しかも それを さらり と 言う、香澄の心理も理解 出来なかった。


しかし それより何よりも、

やはり貴史が何処かに行ってしまうのか、という事実がショックで、

和は何も言えなかった。





< 103 / 178 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop